■3人それぞれの「チャンピオン」への想いが交錯する最終2連戦
8月、真夏のもてぎラウンドから2ヵ月あまりのインターバルが空いて、秋の風が流れる鈴鹿サーキットへ。日本で最も鋭く速いドライバーは誰か、を競うトップフォーミュラのマシン群と22名のドライバーが集結しています。
ここでひとつお知らせしておかなくてはいけないことが。TGMグランプリの53号車は今年はずっと大湯都史樹が操ってきましたが、今週末の2連戦はSF初レースとなる大草りきに乗り替わることが、チームから発表されています。一瞬の切れ味を今年も何度か見せてくれた大津の欠場はちょっと残念ですが。
また、スーパーGTのSUGOラウンドでマシンがちぎれるほどの大きなクラッシュにあった山本尚貴が、今季残りのレースを欠場することになったため、ナカジマレーシングの64号車は大津弘樹がドライブします。
かくしてこの週末、”観る”側の想いはシンプルに「誰がチャンピオン・タイトルを勝ち取るのか」、この一点に集中することになりました。例年以上に積み上げてきた選手権ポイントが詰まった状態で迎える最終戦、しかも2レース。全日本スーパーフォーミュラ選手権の規則に定められている「得点」は、予選では1位・3点、2位・2点、3位・1点。決勝レースでは1位・20点、2位・15点、3位・11点、以下10位まで8-6-5-4-3-2-1点。ということは、予選最速でポールポジション獲得、そこから決勝も優勝するとフルマークで23点を獲得できる。この週末は、午前中に予選、午後に決勝の「1ディ・レース」を土曜日・日曜日の2日ともに戦う2連戦なので、両方ともP.P.→優勝なら46点を手にすることになるわけですが…。
ここまでのシリーズ7戦を終えて獲得ポイントでリードするのは、宮田莉朋で96点。続く2番手はリーアム・ローソンの86点。一昨年、昨年とシリーズを連覇している野尻智紀が84点で3番手に続く、という状況です。それに続くのは平川亮の51点、坪井翔の50点で、計算上、ここまではチャンピオンの可能性を残している、となりますが、実質的にチャンピオンの可能性は宮田、ローソン、野尻の3人に絞られたと言ってもいいでしょう。
現状の、そして第8戦終了後、さらに全9戦終了後の「ポイントテーブル」は、スーパーフォーミュラ公式ウェブサイト「ドライバー順位」をご覧ください。
この3人にとって「2023年スーパーフォーミュラ・チャンピオン」のタイトルを手にすることは、それぞれに重さが増してきている状況なのです。
まず野尻にとっては「国内トップフォーミュラ”3連覇”」となるわけで、それをこれまでに達成したのは中嶋悟のみ。5度のタイトルのうち1984-86年は3連覇を遂げ、そこから日本人初のF1レギュラードライバーへとステップアップしていった。今年はエアロデザインを一新したSF23の挙動がしっくり来ない中、ここ鈴鹿での第3戦で珍しくアクシデントを起こし、続くオートポリスは肺気胸で欠場。しかし前戦もてぎで復調の勝利を挙げてチャンピオンに手が届くところまで来た以上、「3連覇」のチャンスをむざむざ逃しはしない、はず。
同じチーム無限で、今季SFにやってきたローソンは、その初戦・富士で早くも優勝、さらに初めてのコースばかりの中でオートポリス、2度目の富士と、ここまで3勝。レッドブル傘下のドライバーとして、SF参戦と並行してアルファタウリのシートが空いた(レギュラーのダニエル・リカルドの負傷欠場)ところへ代打出場、チームメイトの角田裕毅と同等の速さと成績を残している。来季に向けてレッドブル、アルファタウリのレギュラードライバーの座を手にするためにも、ここまで来たら「スーパーフォーミュラ・チャンピオン」のタイトルを手にしなければ、という想いは強まっている、はず。
一方、宮田はタイヤのグリップ限界、いわゆる「エッジ」を感じ取ってマシンの運動をそこでコントロールする切れ味は現在のSFドライバーの中でも1、2を争う資質の持ち主。しかし、SF初勝利はいろいろあった今季第3戦鈴鹿。そこからSUGOで2勝目。他の5戦でも着実にポイントを稼いでポイントリーダーに立ったわけだが、トヨタ=GAZOO Racingとして2024年はWEC(世界耐久選手権/おそらくGTカテゴリーから)など欧州でのレースに送り出す方針で、日本国内については少なくともスーパーGTにはエントリーしないとのこと。世界に向けて巣立つ前に「日本でいちばん速いドライバー」のタイトルを手にしておきたい、はず。
と三者三様の思いを込めて臨む週末2連戦なのではあります。もちろん他のドライバーたちにしても、彼ら3人だけの戦いにするつもりはさらさらなく、虎視眈々と1勝、あるいは2連勝を狙っているわけで、いつも以上に”濃い”2日間になることは間違いないと思われます。
しかも「週末2連戦」のフォーマットは、まず金曜日に90分のフリー走行、といってもこの時点ではコースの路面は埃などが乗っているだけの状態で、そこにスーパーフォーミュラのマシン+タイヤが走ることでようやく「掃除」と、タイヤのトレッド表面が発熱して”溶けた”ゴムが着いてゆく。その中で予選、決勝それぞれに対応するセットアップを確かめ、煮詰めるのは難しい。
一夜明けて土曜日午前・第8戦の予選は路面も気象条件も、ドライバーにとってもエンジニアにとっても「ぶっつけ本番」の戦いになる。そして午後の決勝では諸条件も変わり、タイヤの摩耗も確認できたとはいえない状況なので、これもまた「ぶっつけ本番」のようなもの。そう思っていいでしょう。日曜日の第9戦は、この土曜日の予選・決勝がデータベースになるので、もう少し予測の精度が上がるはずですが。
では、この「決着の2日間」はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。
■全日本スーパーフォーミュラ選手権・第8戦&第9戦「レース・フォーマット」
●レース距離:第9戦・第10戦とも:180.017km(鈴鹿サーキット 5.807km×31周)
(最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:95分)
●タイムスケジュール:第8戦・10月28日(土) 午前9時30分〜公式予選 午後2時30分〜決勝レース
第9戦・10月29日(日) 午前8時50分〜公式予選 午後2時30分〜決勝レース
●予選方式:ノックアウト予選方式(第8戦,第9戦とも)
・Q1はA,B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
・公式予選Q1の組分けは、第7戦終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、各1台を別の組に分ける。この週末の皮切りとなる第8戦・予選Q1の組分けは…
・Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
・Q2の結果順に予選1~12位が決定する。
●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック:今季の仕様は骨格を形作るゴム層に天然素材を配合。ウエット(現状品は昨年までと同じ)1スペック
●決勝中のタイヤ交換義務:あり~ただしドライ路面でのレースの場合
・スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
・先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。(鈴鹿サーキットの第1SCラインは最終コーナーを立ち上がり、ピットロードが右に別れる分岐点に引かれた白線。ちなみに第2SCラインはピットロードが本コースに合流後、1コーナーに向かうコース幅に収束した位置に引かれた白線)
・タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・レースが赤旗で中断している中で行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合はOK。
・レースが(31周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算
・決勝レースでウェットタイヤを装着した場合、タイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行った時に限られる。
●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
・ピットレーン走行+停止発進によるロスタイム:鈴鹿の場合、最終シケインを立ち上がった先でピットロードが分岐するが、速度制限区間が始まるのは計時ラインの30mほど手前であり、そこまではエントリーロードをほぼレーシングスピードで走ってくることもあり、ピットレーン走行による(ストレートをレーシングスピードで走行するのに対する)ロスタイムは約27〜28秒と推測されます。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、半周ほどはペースが上がらないことで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間になります。言い換えれば、ピットタイミングが異なる車両同士の差が「ミニマム35〜36秒」あるかどうかが、順位変動の目安になるわけです。
●タイヤ使用制限
●ドライ(スリック)タイヤ
・金曜日・専有走行〜第8戦(土曜日):新品・3セット、持ち越し(前戦までに入手したものの中から)・3セット
・第9戦(日曜日):新品・2セット、持ち越し(前日の第1戦から)・4セット
土曜日の第8戦に関しては、(ドライ路面であれば)まず新品2セットを予選に投入。Q2に進んだ12台に関してはその2セットが「1アタック品」となりますが、決勝レースのスタートには新品を履いて臨めます。タイヤ交換義務を消化したレース後半に履くタイヤが新品になるか、1アタック品になるかは、Q2に進出したか(Q1止まりならば新品が1セット残る)に加えて、持ち越し品の中で何セットを新品かそれに近い状態で残していたか、金曜日の専有走行でそれらをどう使ったか、で変わってきます。
さらに、日曜日の第9戦に向けては、新品の供給は2セットのみなので、Q2まで進出するとこの2セットは使ってしまう。そこでテストからの持ち越しタイヤ、金曜日のタイヤ・ローテーションを工夫して、決勝レースのスタートに新品を残しておきたいところ。
●ウェットタイヤ:1大会・2レース制の場合は最大8セット
●走行前のタイヤ加熱:禁止
●決勝レース中の燃料補給:禁止
●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.0L/h)
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下していきます。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。
●オーバーテイク・システム(OTS)
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」
・一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、今季はいくつかのコースでは変更。でもここ鈴鹿に関しては昨年までと同様に100秒間。レースでのラップタイムでほぼ1周分なので、OTSを切ったポイントに戻ってくるまでは使えない、ということになります。
●OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持されますので、概算で出力が60ps近く増える状態になリます。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされるわけです。
︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
︎ロールバー前面の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。これとは別に、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。また予選中に「アタックしている」ことをドライバーが周囲に知らせたい場合、このLEDを点滅させる「Qライト」が使えます。
●今季、OTS作動時にロールバー前面と、車両後端のレインライトとリアウィング翼端板後縁のLEDを点滅させていたのを廃止したのですが、第4戦オートポリスからリアライトだけは作動時の点滅を復活。つまり後続のドライバーは作動8秒後からオフにするまでは、車両後端の赤LEDの点滅で前車のOTS作動がそれとわかるようになりました。ただこの赤灯の本来の役目は「レインライト」、つまりウェット路面走行でタイヤが巻き上げた水滴が霧のようになる中で、前を走る車両の存在を確認するためのもの。ドライバーがコックピットの中でオン/オフできるので、OTSを作動させていなくても「フェイク」点灯は可能です。
●全車のオンボード映像と車両走行状態をほぼリアルタイムで視聴することができるアプリ、「SFgo」なら、観客もチームスタッフも各車のOTS作動状況を”見る”ことができます。運転操作などと合わせて、OTSの作動、残り時間、インターバルタイムの経過が、表示されるので。さらに今季からはドライバーとチームの無線交信も聞けます。ここまで踏み込んでの観戦には「必須」のツールと言えるでしょう。チームもこのアプリを駆使するようになっていますので、「○○、OTS撃ってるよ」(チーム)「(前後の競争相手の)残り秒数は?」(ドライバー)といった無線交信が増えています。
これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ今季最終2連戦、走っても、見ても、難しくておもしろい、鈴鹿という舞台で演じられる「決着の戦い」を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!
(文:両角 岳彦/写真:JRP、両角 岳彦)
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