■オンライン化で身近になったクラシックカーオークション
クラシックカーの伝道師・越湖信一さんによる、カーオークション入門講座第2弾。
コロナ禍を経て、一気にオンライン化を遂げたオークションの世界。一時低迷していたクラシックカービジネスは、デジタル空間への進出により、一気に活気を取り戻しているようです。
●V字回復を遂げた名車オークション業界
2020年2月頃から世界中のイベントが次々と開催中止となりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延です。
3月に開催される予定であったジュネーブ・モーターショーの中止を知らされたのは、筆者がその準備の為に羽田空港へ向かっている最中のことでした。大慌てでフライトをキャンセルしたのも、つい先日のような気がします。
さて、コロナ禍の大混乱は語るまでもありませんが、それでも北米やヨーロッパでは何とかビジネスを止めないようにするという想いが強かったように感じます。そのジュネーブ・モーターショーも、大奮闘の末、ヴァーチャルで何とか開催してしまったくらいですから。
もちろんクラシックカーオークションにもコロナ禍は直撃しました。2020年のリアルイベントは全滅で、売り上げも激減です。そして、彼らは迅速にオンライン化を進めました。
果たしてその結果はどうなったのでしょうか?
結果的に見ると、このコロナ禍のおかげでオークションビジネスは大きな変貌を遂げたのです。
2020年の売り上げは過去9年間で最低となりましたが、2020-2021年シーズンの売上高は10億ドル(約1340億6600万円)以上となり、落札平均価格は35%上昇。落札率も大幅な上昇を見せました。
クラシックカーオークション業界は新しい方向性を見つけ、業績もV字回復を果たしたのです。
●ソファに座ったままスマホでクラシックカーをポチリ
そもそもコロナ禍以前の2019年当時、クラシックカービジネスは伸び悩み、オークションの売り上げも低迷していました。
背景には、クラシックカー相場価格の急上昇による需要低迷と、売り手側からの良質な個体の出し惜しみがありました。それが2021年以降、コロナ禍による行動様式の変化とオンライン化などオークション出展のハードルが下がったこと、というふたつの要因から、新たな上昇気流が発生したのです。
銀行口座にお金を貯めておくよりも、夢のクルマを手に入れて楽しもう。それが飽きたら、またオークションで売却すればいい。そんなトレンドが富裕顧客を中心に高まったのです。
第二に、ウェブでは既存のオークションハウスもライブストリーミング配信を行い、登録ユーザーとしてオンラインでビッドが行われるという流れが急速に広まりました。
さらに重要なのはオンライン専門のオークション・プラットフォームの盛り上がりです。北米ではBring A Trailer、 PCARMARKET、ヨーロッパではCollecting Cars、The Marketなど、リアルなオークション会場を持たないオンラインに特化したビジネスに注目が集まってきたのです。
2021年には、Bring A Trailerが伝統的な2大メーカーであるMecumとRM Sotheby’sの売上高を追い越したという事実が象徴的です。
顧客はスマホから365日、24時間、クラシックカーをソファに座ったままで購入することが普通となったのです。それらのサイトでは毎日何百台ものクルマが出展され、数百万円の手頃な金額の個体からトップレンジまで、多くの写真やビデオ付きで紹介されています。
かつては、実車を見ることなしにクラシックカーを買うなど考えられませんでした。しかし、皆のマインドも変化してきたのです。
出展される個体のクオリティも上がり、ダメージのあるところは、隠さず正確に記述されるようになってきました。実車を見たからといって、プロのオークションハウススタッフが記述している情報以上のものをつかむのはそう簡単なことではないということも皆がわかってきていました。
そう、それよりもウェブサイト・ウォッチャー達のその個体や売り手に関する忖度ない情報が頼りになるワケです。
●年鑑本はコレクターにとっての「虎の巻」
もうひとつの要因は、コロナ禍によるここ数年の動きではありませんが、各モデルの相場がクリアになってきたことです。
情報が世界で共有されるようになった現在では、いわゆる掘り出し物が出てくることはほとんどありません。ですからデータベースで相場の推移を調べることは理にかなっているのです。
しかし、そんな情報をどうやってつかむのか?と疑問に思われるかもしれません。
それを解決してくれるのが筆者の古くからの友人であるアドルフォ・オルシJr(*注)のライフワークなのです。
彼は今から30年余りも前から、オークションにおける落札データの重要性を理解し、そのデータベース作りを実践ました。「Classic Car Auction YearBook」という彼の発行する主要オークションの落札情報をまとめた年鑑本こそがコレクターにとっての虎の巻です。
最新刊の2021-2022版では、2021年9月1日から2022年8月31日までに世界中で開催された主要なカーオークションの結果を収録しています。その数8,431台。
各車両の年式、モデル名、ボディビルダー名、シャーシナンバー、推定価格、落札価格、販売日、販売場所、ロット番号、オークションハウス名などの情報が収録されているのです。さらに過去29年間にわたり、その車両が他のオークションに出品されたか否か、という重要な追跡情報も記載されています。
オンラインのオークションで盛り上がっても、こういった過去データを参考に一旦、冷静になることは重要なことなのです。
●180億円以上で落札された個体も
このように、オークションを取り巻く環境が整備されることで、クラシックカーの世界は再び大きな成長が見込まれています。
これまでは、2018年に北米モントレーにおいて落札された1962年フェラーリ250GTOの4800万ドル(約63億3600万円円※1ドル=130円で試算)が落札金額の世界記録でした。
ところが、2022年の5月にメルセデス・ベンツ300SLRクーペ(ウーレンハウト・クーペ)が何と182億円あまりで落札されたというニュースが配信されたではありませんか。
このオークションはメルセデス・ベンツ・ミュージアムでごく限られた顧客のみが参加しておこなわれたようで、この落札金額は自動車としてトップであるのはもちろんですが、絵画など全てのオークションにおける落札金額としてもベストテンに入る金額なのです。
ハナシは大きくなってしまいましたが、件のアドルフォ・オルシから先日、連絡をもらいました。
「ドイツのオークションに“スーパーカーの歌”というレコードが出ているんだ。その歌手名はKIRIKAEというそうなんだが、君は知っているか?」と。そう、そんな“手頃”な自動車関連用品カテゴリーもあるカーオークション。貴殿もウェブサイトを除いてみては如何でしょうか。
*注:アドルフォ・オルシJr:マセラティのオーナーであったオルシ家の末裔。ペブルビーチ・コンクールデレガンスなど世界のコンクールデレガンスの審査員を務める。
(文:越湖信一/写真:RM SOTHEBY’S、Mercedes-Benz)
【「Classic Car Auction Yearbook」に関する問い合わせ】
「Classic Car Auction YearBook」の購入は洋書取り扱い店にて。
(問い合わせ:EKKO PROJECT contact@ekko.jp)
【関連リンク】
「Classic Car Auction YearBook」公式サイト(英語)
https://www.classiccarauctionyearbook.com/en/
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