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タイヤを「見る」技術の進化。機械にタイヤを委ねる完全自動運転は「無理」【自動車技術会モータースポーツ技術と文化シンポジウム3】

●「ULTIMATE EYE(タイヤ性能予測・計測システム)」のレースタイヤ技術開発への適用

【ブリヂストン  桑山勲氏】

ここは私の関心がいちばん深い分野、つまりタイヤが路面と摩擦して力を生み出す現象をどこまで具体的にとらえることができるか。ブリヂストンではもう20年ほどにわたって実際にタイヤを転動させながら、その接地面がどのような力を発生し、それがタイヤの内部骨格にどう伝わっているのかを現物で計測・分析するシステムの開発を続けている。その計測結果を蓄積しつつ、最新の構造解析などによって設計内容の何を変えるとどこにどう現れるかの予測技術と組み合わせて、タイヤ開発を進めてきている、という。

この「何が起こるかを予測して、できたものを計測して分析、再び設計に反映する」というループを形づくる手法全体を「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」と名付けていて、講演者の桑山氏はそのスペシャリストだ。

「なるほど」と納得させられたのはその計測システム。路面がわりの大きなローラーにタイヤを押し付けてともに回転させる。これで走行を模擬しつつ、ローラーの表面にタイヤが接地した瞬間にそこで発生している力を様々な方向に分けて精密に計測できるようにしてある。タイヤとローラーの位置関係をずらしながら連続的に計測することで、接地面全域についてこのデータを取得する。それを例えば横すべり角(コーナリング状態)やキャンバーなど、タイヤにとっての条件を変えて様々に計測する。同時にローラーとタイヤの相互位置を精密に把握することで、タイヤ・トレッドのどの場所が接地して、どんなデータが記録されたかの関係もつかむ。

この計測マシンの最新バージョン(大きく分けると2世代目、刻々と改良してきた最新版、とのこと)は、ひとつの条件で接地面全域を計測するのに「数分あれば…」なのだという。何十年か前に大学の研究室で、平板の上にひとつだけ力センサーを埋め込んだ上を、低速でゴロゴロとタイヤを転がす試験を毎日繰り返していた経験がある者としては、まさに「隔世の感」にひたるのに十分なお話だった。

こうして得られた計測結果から、接地面の中でどんな現象が起きているかに始まり、摩擦力によってタイヤ骨格がどんなたわみを起こしているかも見えてくる。例えばレース用のスリックタイヤでも、路面との強烈な摩擦力を受けてトレッドを支える骨格が波打つようにたわむ。この波打ち変形=バックリングが起こると、接地面の一部が浮き上がり摩擦力が減るだけでなく、偏摩耗も起こる。こうした現象を具体的にとらえることができ、タイヤのパフォーマンス改良につながっているという。

この部分だけ考えても、摩耗によってトレッドコンパウンドが薄くなると、その下の骨格を含めた剛性も変化するので、こうした変形の現れ方も変わる。このあたりがタイヤの「タレ」にもつながってくるのだろうな、と講演を聞きながら考えた。

こうした学術講演会では、ひとつの講演が終わると会場から質問を受ける時間が設けられているのだか、ここで質問に立ったのが同じタイヤ・メーカーの住友ゴム、横浜ゴムのエンジニアで、設備や解析についてかなり具体的な内容を問いかけ、桑山氏がそれにフランクに答えていたのが印象的だった。皆それぞれに、タイヤという「黒くて、丸くて、よく分からないもの」(私にそう諭してくれたのは横浜ゴムで最初の「ADVAN」を生み出したY氏だったが、タイヤ技術者は皆、同じことを口にする)に取り組む「同志」なんだな、と感じさせる時間だった。

ほんとにタイヤは「分からないもの」なのだ。タイヤの接地面と構造の中で起こる現象を、物理学の基礎理論で表現し、数学的なモデルを組んでコンピューターに演算させ、シミュレーションすることもまだできない。ということは、あるクルマがどう走るか、その運動をシミュレーションすることも、タイヤの特性を大まかに仮定してやってみているだけだ。でも人間は、そのタイヤの路面との摩擦や転がり方、舵を切る・保持する中でのタイヤ骨格のたわみまで感じ取ってクルマを走らせている。「(コンピューター制御の機械にタイヤのコントロールを委ねる)完全自動運転なんて、まだ当分できませんね」という私の問いかけに、桑山氏は「無理です」と即答してくれた。

ちなみに講演の始めにはこんな言葉もあった。「タイヤの技術開発としては『コンペティション(競い合い)』があることが重要です。したがって、現在ではスーパーGTに注力している状況です」。

(両角 岳彦)



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