ABT RS5-R
ヨーロッパでは、チューニングスペシャリストが旺盛に活躍している。スピードリミッターが普及して、多くの市販高性能モデルの最高速が見えなくなった現在、そのくびきを解放して実力を示すことができるのは一流のチューナーである。と同時に、コストなどの制約からメーカーが諦めざるを得ない領域にも彼らは踏み込んで、市販モデルの潜在性能を存分に引き出している。
そのひとつの好例として、世界に名を馳せるドイツの名門チューナー「アプト・スポーツライン」がつい最近発表した「ABT RS5-R」を紹介しよう。
創業を1970年に遡るアプトは、アウディとは切っても切れない仲にある。ABT RS5-Rとの2ショットに映っているのは、1989年発表のアウディ・クワトロ20Vをベースにアプトが手掛けたチューンドカー。現在はババリア州にあるアプト・スポーツラインミュージアムが所蔵する歴史的な1台だ。
「クワトロ20Vをチューンした当時は、過給圧1.6バールのターボに換装しました」。同社のCEOハンス-ユルゲン・アプトはそう語る。「排気系をモディファイして、大型のインタークーラーに付け替えました」。結果として、ストックのクワトロ20Vの220hpから260hpへパワーアップを果たしたという。
さて、アプト・スポーツラインの新作ABT RS5-Rの成り立ちを眺めていこう。ベースになったのはアウディRS5クーペだ。「2.9リッターV6ツインターボから80hpの上乗せに成功しました」とハンス-ユルゲン・アプトは言う。アウディRS5クーペの公表最高パワーが450hpだから、530hpのパワーを生み出すことになる。
ABTオリジナルのECUと排気系に換装し、水冷式インタークーラーを1基追加したことがパワーアップの決め手になった。これで最大トルクも600Nmから690Nmへと大幅な増強を果たしている。
パワーとトルクの上乗せは正直に動力性能に反映され、0→100km/h加速は3.9秒から3.6秒に向上した。100km/hまでのスプリント加速で0.3秒の短縮は大きい。最高速は280km/hとあるが、これはおそらくリミッターの歯止めを掛けた場合の数値であって、解除すれば相当な伸び代を秘めていると思われる。
ABT RS5-Rはただ速いだけが売り物のチューンドカーではない。例えばABTオリジナルの排気系は、エモーショナルなドライブ体験に大きな役割を果たしている。102mmという大径丸形4本出しのエンドパイプはCFRP製でリヤスタイルを引き締め、V6の迫力あるエキゾーストサウンドを発する。
パワーアップに応じて、足まわりのチューンにも抜かりはない。ABTオリジナルのスタビライザーと車高調整スプリングが標準で備わり、車高調整サスペンションキットがオプションで用意される。
同様、ボディパーツも見どころ満載だ。フロントではノーズリップと「RS5-R」のロゴ入りシングルフレームが目を引く。サイドに回ると21インチ ABT スポーツGRホイールと、それをクリアするホイールアーチが圧巻。リヤでは、先に述べたエンドパイプとリップ状スポイラーが主役だ。なお、空力パーツはほぼすべてCFRP製である。
ABT RS5-Rで見事なのは、オリジナルのアウディRS5クーペの美点であるエレガンスを100%活かしつつ、空力特性を向上させた点。チューンドカーにありがちな空力的付加物によるスタイリングの破綻が一切ない。
ABT RS5-Rは50台の限定生産。来たる12月1日に開幕するドイツのエッセン・モーターショーでワールドプレミアムを果たす。その姿を直に見ようと今から胸を高鳴らせている人が大勢いるはずだ。ヨーロッパでは、一流チューナーの作品は一部好事家の趣味の対象の域を超えて、マーケットに確たる地歩を築いているのである。
TEXT/相原俊樹(Toshiki AIHARA)
あわせて読みたい
from clicccar.com(クリッカー) https://ift.tt/2Jrke1T
via IFTTT https://ift.tt/2Jrke1T
コメント
コメントを投稿