8月26日に鈴鹿サーキットで開催されたサマーエンデュランス「SUZUKA 10HOUR」。10時間という長丁場、最高気温36℃という過酷な条件の中での開催はまさに耐久レースの真骨頂といえるでしょう。
復活の34号車、Modulo Dorago CORSEの新生NSX GT3は新車納入から10日で整備を終え、このレースに挑むというハードなスケジュール。
23日夕方のフリー走行がシェイクダウンとなり、そこからレースにあわせてのセッティングを行うということで、2回の事前テストを走行しているライバルたちに比べて大きなハンデを背負っている状態。そんな中、予選Q2のPole Shootoutに進出するなどチームの粘り強さを見せつけます。
しかし、Pole Shootoutのアタックでコースアウトしてしまったためにグリッドは23番手。この位置から上を目指してのスタートとなります。
スターティンググリッドは中盤グリッドとは思えないほどの人混み。チームの人気の凄さを目の当たりにした瞬間です。
そして午前10時、フォーメーションラップの後にスタートが切られます。ここから午後8時のチェッカーフラッグまで過酷な10時間のレースが始まります。スタートドライバーは大津弘樹選手。スタート直後のオープニングラップでひとつポジションアップすることに成功し幸先のいいスタートと思いきや、その直後に接触のペナルティでドライブスルーを余儀なくされます。
しかしこのレースは10時間。初盤のミスは取り返していける、ということでドライブスルーペナルティを消化した後に気を取り直してコースに復帰していきますが、やはり運は持っていたModulo Dorago CORSE。直後のフルコースイエロー(FCY)でその遅れを取り戻します。
大津選手は27周で道上龍選手に交代。SUPER GTの感覚だとちょっと短くないか?と思いがちですが、SUZUKA 10HOURはブランパンGTシリーズなどプロモーターであるSROのルールで行われるINTER CONTINENTAL GT CHALLENGEの中の1戦として行われるため、1スティントが最長65分、セイフティカー導入時にかぶれば70分までと決められているのです。
ピットストップ時間も決められており、給油を伴うルーティーンのピットインではピットレーン滞在が82秒以上。SUPER GTに比べると倍の時間となります。それによりタイヤ交換を省略してタイムを稼ぐなどの作戦をとることができず、純粋にラップタイムの積み重ねで順位を上げていくこととなります。
そんなルールの下で戦う34号車。周回を重ねるごとにピットインのタイミングが徐々に速くなってきました。タンク内の燃料が3分の1になる辺りからパーコレーション現象が発生してしまうようになったのです。この現象が起きるとエンジンパワーが一気に下がってしまいます。そのためにタンク内の燃料を全て使い切ることができず、タンクに燃料が残っている状態、つまり早め早めのピットインとなってしまうのです。
それでも諦めずにこまめなピットインを繰り返し、午後8時のチェッカーを目指すチーム。
自分のスティントを終えピットに戻った道上選手は汗だくのレーシングスーツをすぐには脱がず、モニターでレースの様子を注視しています。選手兼チーム代表としての責任感といえるシーンです。
午後6時30分頃になると日も落ち、全車にライトオンの指示が出されます。SUZUKA 10Hのエンディングはこのライトオンによるナイトセッションとなるのです。路面温度が冷えてきて、むしろラップタイムが向上しやすくなるナイトセッション。視界が著しく悪くなる中で、実は激しいバトルが繰り広げられていくのです。
激しいバトルの末、午後8時のチェッカーフラッグ。あの不運のクラッシュからの奇跡の新車導入。そこから少ない時間でセットアップした34号車は無事に完走を果たします。
ラストスティントを担当した小暮卓史選手は、パルクフェルメでマシンから降りた瞬間に起こった大声援に手を振って応えます。
そしてサインガードに駆け寄ると鄭永熏監督と熱い握手を交わしました。
34号車は総合21位でのフィニッシュ。「SUPER GTではヨコハマタイヤさんがマシンの特性やコースに併せて様々に組み合わせを提供してくれますが、ワンメイクのピレリタイヤではスペックを変えるということは出来ず、終始セッティングに苦慮しました。NSX GT3がセッティングできる範囲の外にピレリのピークがあるような感じで、サスペンションだけではなくドライビングでも合わせ込むようなことが必要になっていました。海外チームはピレリタイヤを熟知しているのが私たちとの大きな差ですね」とレースの苦労を語る道上選手。
しかし、準備が出来る時間が短い中で完走できるまでにマシンとチームを作り上げたことに対する評価は非常に高く、特別賞とも言えるメディア賞を受賞。
順位に憂うのではなく素直に完走を喜ぶ姿が印象的でした。
来年も参加しますか?という問いに「今回のレースでピレリのこと、マシンのことなどわかった事はかなり多い。来年もぜひ参加したい」と鄭永熏監督が熱く応えてくれました。
ピレリとヨコハマでは全くセッティングが違いますが、新車のマシンを10時間走らせて得たデータはSUPER GTでも多分に生かせるとのことで、今シーズンのSUPER GT後半戦にも大きな期待がかかります。SUPER GTでは同じマシンをModulo KENWOOD NSX GT3として注目していきましょう。
(写真・文:松永和浩)
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